「廃校」テーマに写真集 吉田功さん(飯能市柳町)が出版
飯能市柳町在住の写真家・吉田功さん(73)が、廃校を迎えた小中学校の最後の1年間を撮影した写真集「廃校“12人の詩”相馬市立玉野小・中学校」を出版した。廃校をテーマにしたシリーズの3作目。過去2作は地元飯能をはじめ埼玉県内の学校が被写体だったが、今回は福島県相馬市で昨年3月に廃校となった玉野小学校、玉野中学校が題材。東日本大震災に伴う原発事故に大きな影響を受け、同時に廃校を迎えた両校の最後の1年に密着し、児童生徒の姿を追った。28日~9月3日には、写真集で取り上げた玉野小に焦点を絞った写真展「一人きりの卒業生」をニコンプラザ新宿で開催する。
吉田さんは、地元飯能の旧北川小学校、旧南川小学校をはじめ近隣市町村で廃校となった小中12校を28年かけて撮影し、廃校を間近に控えた学校生活の様子、最後の児童を送り出した校舎のその後など、失われてゆく学び舎の姿をまとめた写真集「廃校の行方」を平成25年に出版、多くの反響を呼んだ。
また、27年には「廃校・大滝小最後の一年」を出版。141年の歴史に幕を閉じた秩父市立大滝小学校を被写体に、廃校までの1年間にわたり撮影した児童や教諭、校舎の姿を収めた。
今回の題材に選んだ福島県相馬市立玉野小・中学校は、小学校2人、中学校10人の総勢12人の児童生徒を最後に、29年3月に廃校となった。少子化に加え、震災の原発事故による自主避難で児童生徒が急減。創立143年の歴史を持つ玉野小はかつて200人が通学した時代もあったが、廃校に至るまでの4年間は新入生がゼロ、最後の在籍児童は5・6年生が1人ずつだった。
吉田さんは、震災の3年後に福島へ行く機会があり、同小中学校が廃校になるとの話を聞き、教育委員会や学校に掛け合って撮影の許可を受けた。廃校までの1年間、毎月2~4回学校へ足を運び、撮影を続けた。
「暗い表情はなるべく撮りたくない。将来への希望を持った子どもたちの姿を、そして、子どもたちを見守りたいという思いを込めてシャッターを切った」。
写真集は、学校周辺の景観や除染作業の様子から始まり、授業風景、給食、休み時間、運動会、文化祭などの学校行事、そして最後の卒業式、閉校式まで、これまでのシリーズ同様、全てモノクロームで表現。教師や児童生徒と交流を深めながら、ファインダーを通して家族のような温かな視点で見つめ続けた。
また、特に印象的だったのは、校門の近くに設置された大きな放射能測定器。「子どもたちはほとんど気にしていなかったが、本来は学校にあるものではない。原発事故以降の現地の日常を象徴する存在と感じた」と振り返る。
吉田さんは、昭和58年3月に飯能市の旧北川小学校の卒業式を訪ねた際、卒業生4人に卒業証書を手渡しながら一人ひとりに言葉を贈る校長や、子どもたちと向き合う教諭の温かな眼差しに感動。平成5年に廃校となるまで同小に通ったのを皮切りに、各地の廃校に至る学校の姿を追うようになった。
一口に少子化といっても、廃校の背景はさまざま。「人口が著しく減っている山村のみならず、住宅密集地でも一時は子育て世代が増え学校を作っても、子どもの世代が出ていき親世代しか残らず、やがて廃校になってしまう場合もある。また、今回の相馬市のように原発事故が廃校に大きな影響を与えたというケースは、記録としても残しておく必要があると感じた」。
吾野地区の小学校統合、小中一貫校についても関心を持つ吉田さん。「教師と児童生徒の距離感など、小規模校ならではの良さがある一方、そうした学校の多くはやがて統廃合の運命を辿ることになる。子どもたちの学び舎は、今後どうなってしまうのか。教育行政の難しさを考えさせられる。今後も足を運びたい」と話している。
吉田さんは30代で写真を学び、二科展などで入選。平成14年、15年には埼玉県写真サロンで2年連続の知事賞、22年に二科展写真部・組写真部門で特選、23年に県写真サロンで特選を受賞した。現在、日本写真作家協会会員、二科会写真部会友。公民館などの写真教室で後進の指導にあたっている。
写真展は28日から9月3日まで、東京都新宿区の新宿エルタワー28階・ニコンプラザ新宿内の新宿「THE GALLERY2」で開催。期間中の時間は午前10時半~午後6時半(日曜休館、最終日は午後3時まで)。写真集は定価2800円(税込)。