飯能市博物館開館へ 飯能の近現代史充実
4月1日のリニューアルオープンを直前に控え、新生「飯能市博物館(飯能市飯能、愛称:きっとす)」の内覧会が26日開催され、新展示物作成に協力した市民など約50人を招き一足早く披露された。改装ポイントは、自然博物館としての機能付加と、明治以降の歴史展示を充実させ、展示内容をほぼ一新した。展示変更に伴い、4月1日から郷土館から博物館に名称変更され、より市民に親しまれる博物館作りを目指し、愛称も公募。この日「きっとす」に決定した事が公表された。
同館は、平成2年4月、地域の歴史、民俗、考古の3分野の歴史展示中心の博物館として「飯能市郷土館」の名称で開館。12年3月、博物館法に基づく登録博物館になり、26年に入館者が70万人を突破した。
今秋の「メッツァ」(同市宮沢湖周辺)開園に伴い、同館は、「緑と清流のまち飯能」を象徴する「都市回廊空間」を構成する中核施設と位置付けられ、特に「天覧山・飯能河原」周辺の清流や里山などを紹介する自然博物館としての機能や、飯能を訪れた観光客を「メッツァ」「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」にも誘導するビジターセンター機能の付加、歴史博物館としての機能強化も目指し、昨年6月から内部の改装工事や、市民ボランティアなども参加しての展示物制作などが行われていた。改装工事費等は約5260万円、財源の半額は国や県からの交付金で賄われる。
この日、訪れた市民は、尾崎泰弘館長の説明に耳を傾けながら新展示物一つひとつを興味深そうに見入っていた。
■天覧山等の里山紹介
エントラスを入った左側正面が、今回新たに加わった「身近な自然」紹介コーナー。飯能河原周辺をカラフルに表現したまちのミニチュア立体模型を中心に、「天覧山」「里山と自然」「平地と山地にまたがる飯能」「飯能の地質」「鳥類」「水辺の生き物」など項目ごとに豊富なカラー写真、様々な石の実物、江戸時代後期の「飯能村の絵図」等も使いながら、飯能河原周辺の里山の豊かな自然を立体的に紹介。顕微鏡が備えられ、自然観察体験も可能。周辺の自然に興味を持ってもらい、都市回廊空間を構成する地域に観光客を誘うビジターセンター的役割も期待されるメーンスペース。
また、自然コーナー設置以前にあった筏(いかだ)などの西川材の展示スペースは、同コーナーの右手側に移され、現在の西川材製品も数多く紹介している。
■県指定の板碑に注目
歴史展示物は一新され、飯能を構成する3つの地形「里」「山」「まち」に基づいた地域の歴史をゾーンにまとめて紹介。明治以後の近代の歴史展示が充実した。また、「飯能今昔」コーナーも設置。このコーナーは、歴史と現代のつながりを重視した展示を意識し、展示替えを頻繁に行う予定。
「里」の目玉展示物は、県指定文化財「智観寺板石塔婆(板碑)」の実物大(高さ157センチ)の複製。板碑は中世に作られた石塔の一種。仁治3(1242)年銘が刻まれ、銘文から元久2(1205)年、武蔵二俣川の合戦で、畠山重忠に討ち取られた飯能の武士・加治家季のために立てられた物と判明している。中央に大きな梵字が記され、著名な戦いに関わる歴史的資料として、飯能を代表する文化財。現物は、同市中山の智観寺の収蔵庫に収められ、公開は年1回のため、複製ながら常時目にする事が可能になった。
■明治大正期のまち再現
飯能のまちの中心は、本来、智観寺がある中山周辺だったが、17世紀後半、現在の大通り辺りにまちの機能が移り、月に6回同所で市が開かれ現在の中心市街地が次第に形成された。
「町」のメーン展示は、絹織物や材木で栄えた明治末期から大正中期ごろの大通りの様子を150分の1のスケールで再現した「大通りの模型」。明治44年12月に撮影された大通りの大きな写真も展示され、賑わっていた当時の様子がイメージできる。飯能のまちの特徴は、建物と道の間に空き地が設けられている事で、写真から、それが良く分かる。市の日に、各地から商品を持ち寄った人がこの空き地を利用し露店を営んだ。
飯能の当時の人口は所沢とほぼ同じで、入間郡内屈指の活気あるまちだった。
■軍荼利明王の複製展示
「山」は、「信仰」と「西川林業」の2つのテーマで構成。「信仰」で注目されるのは、市内高山の高山不動に安置されている国指定重要文化財「木造軍荼利明王立像」の実物大の複製(高さ約230センチ)と、市内下直竹の長光寺の国指定重要文化財「雲版」の複製。雲版は、禅寺で時の合図などの際に打ち鳴らされた雲形をした板。この雲板は、正和2(1313)年製で全国3番目に古い物として知られる。
軍荼利明王は五大明王の一尊で、ヒンズー教の影響も見られる。この立像の製作時期は10世紀に遡ると推測され、地域の山岳仏教の信仰に基づく代表的な仏像で、県内最古の木彫仏として貴重。
28年前の郷土館開館の際は、実物の立像が特別記念展示されている。
「西川林業」は既設展示。県指定有形民俗文化財「飯能の西川材生産用具」などが展示され、林業用の巨大なノコギリなどが目を引く。
また、スマートフォンを活用することで、展示物のより詳しい内容が分かるサービスの開始や、展示物と、現在の実際のまちの風景をリンクさせ、まちに人を誘導させるためなどに作成された「おでかけガイドマップ」の配布も行う。
開館後、同館はビジターセンター機能をより具体化する取り組みを進める。
内覧会に訪れていた郷土館初代館長で郷土史家の浅見徳男さん(同市北川)は、軍荼利明王像を借り受けた時の思い出話をしたほか、「印象として近い時代の明治以降の歴史に力を入れている、と感じます」と語り、展示物一つひとつに思いをはせているようだった。