職員対策隊、出動せよ! 市が新たな有害鳥獣対策
イノシシやシカなど、野生鳥獣による農作物被害に頭を痛めている飯能市が、全国的に見ても前例のない新たな鳥獣被害対策に乗り出した。
市職員でチームを組み、自ら野山に分け入り、サルを追い払ったり、ワナなどを仕掛けて有害鳥獣を捕獲するというもの。
チーム名は名付けて「市鳥獣被害対策隊」。計画では、4月をめどに隊を編制し、まずは入間川・高麗川流域の上流山間5地区から作戦を順次決行する。
鳥獣被害対策隊の立ち上げは、所管する農林課の発案。16日の業務終了後、同課は事前に知らせておいた隊員募集の職員説明会を庁舎内で実施。
市内での鳥獣被害の実態や対策隊の活動イメージ、隊員の役割などについて約1時間にわたって説明した後、「鳥獣被害の対応がとても追い付かない」「地域のために!」「職員の皆さん、ぜひ隊員に応募してほしい」などと呼び掛けた。
職員の関心は高く、説明会には部門を越えて、146人(うち女子職員25人)が出席。プロジェクターを使った説明に聞き入った。
同課によると、平成27年度の市内でのイノシシ、シカ、サル、アライグマなど野生鳥獣による被害は、農業被害だけでも250件、被害金額は約4500万円にも及ぶ。被害額は県全体のおよそ4割を占め、1775アールが食害を受けた。
市民から寄せられた被害件数は、平成19年度以降、右肩上がり。19年度54件だったものが、同28年度には400件に激増。農林課は「市民感情も限界に達している」と、憂う。
野生鳥獣によって引き起こされる被害は、農林業だけにとどまらない。夜間、車道に飛び出し、車にはねられたり、吾野地区の西武秩父線では電車との衝突事故が発生し、運行ダイヤに乱れが生じたことも。昨年9月には、南高麗地区の下直竹で体長120センチのオスのツキノワグマも捕獲されるなどした。
近年の野生鳥獣、特にイノシシなどは山間地から住宅地へと行動圏を拡大し、人への被害も危惧される状況にある。農林課だけでは、対策がなかなかに追い付かないこともあり、全庁的な一大プロジェクトとして、鳥獣被害対策に乗り出すことになった。
対策隊は、農林業被害が深刻な吾野、東吾野、原市場、南高麗、名栗の山間5地区から先行的にスタートさせる。
構成メンバーは各地区に住む職員から任命した地域リーダーなど、5人前後の編成とする。その後は、加治や精明地区など旧村単位対象の隊も立ち上げるが、広大なエリアについては1隊に拘ず、複数隊設置するという。
隊の活動フローは、こう。市民から農林課や地区行政センターに通報→農林課が対応を協議→早急な対応が必要と判断された場合は、本庁舎や出先機関など各部署に散っている隊員へ出動要請→要請を受けた隊員は、所属長の承認を受ける→現地に向け急行──。
実際の有害鳥獣捕獲だけでなく、隊員は農業者らへの効果的な電気柵設置の支援、パチンコや花火によるサルの追い払い、野生鳥獣を近づけないための繁茂している灌木類などの除伐といった作業も行う。
農林課は27日にも2回目の説明会を行った後、隊員を3月1日から15日までの間で募集する。隊員は「ツーデーマーチ」で着用しているグリーンのジャンパーを羽織り、腕章を巻く。有害鳥獣の追い払い用としてパチンコが市から貸与されるが、将来的には狩猟免許(銃)の取得も視野に入れているという。
これまで、市は飯能猟友会への有害鳥獣捕獲の委託、市鳥獣被害対策指導員による捕獲、電気柵の設置補助といった取り組みを継続してきた。
地域の課題解決のため、職員自らが率先して地域に出向いて、対応策を講じる鳥獣被害対策隊。市民の安心・安全な暮らしを保ち、地域ぐるみの鳥獣被害に強い地域づくりの実現といった効果が生まれることを、市は期待している。