食べる喜びをお届け! 配達専門の「お弁当や福すけ」

日替わり弁当。種類豊富な惣菜とご飯、これに味噌汁が付く

新型コロナが猛威を振るい始めた2020年に営業を始めた「お弁当や福すけ」(日高市下鹿山)。代表の樋口麻子さんが2人の仲間と弁当を作り、配達する。届け先は会社勤めの人たち。「頑張って」のエールとともに、食べることの喜びを届けている。

毎朝4時から、地元農家から仕入れた季節の野菜、肉や魚など取り入れたバランスの良い惣菜を作り、弁当箱に詰める。喜んで食べてもらう姿を想像しながら準備を進める。

取材日には、想定数を超える注文が入った。「今日はお断りした所もありました」と、樋口さんは申し訳なさそう。約束の時間までに届けるため、こまめに時間をチェックしながら、注文を受けた弁当を車に載せ、颯爽と出かけていく。

以前の職業は病院の給食調理師。一緒に働く栄養士の仕事ぶりを見ながら栄養についても学んだ。「いろいろあったが楽しかった」と当時を懐かしむ。会社の吸収合併で給食調理師を辞めると、「弁当屋を開いていろいろな人の日常に入りたい」と決心。日高市商工会主催の創業塾で起業に向けた準備を進め、栄養バランスの取れた日替わり弁当を作って届ける企業への配達専門の「福すけ」を起こした。

伝手はなかった。物怖じせず何軒も企業へ飛び込み営業をかけ開拓。日高、坂戸、毛呂山、越生の企業に勤める人たちへ、弁当とともに“真ごころ”を届ける。次の月の弁当メニューを渡すことも忘れない。1か月の中でメニューが被らないよう配慮し、材料や資材の高騰する中、より美味しい弁当を届けるための企業努力を怠らない。

樋口さんは狭山市に生まれ、小学2年の時に日高市に。中学を卒業したらすぐにでも働こうと思ったが、親から「高校くらいは卒業して」と言われ、高校卒業後は服飾系の大学に進学、機織りを学んだ後、まったく分野の違う調理の世界に入った。

働くことへの価値観は、東日本大震災で大きく変わった。「家族のそばで働きたい」。そう願って始めた弁当屋。企業向けの配達に限っているのは、多くの会社が土日休みだからだ。「平日は働いて土日はしっかり休む。子どもと一緒に過ごす時間を大切にしたい」。3人で運営する弁当屋、「働く仕組みが大事」と、ワークライフバランスを考えた営業を実践する。

2022年、アメリカンエキスプレスが地域で店を構える女性を支援するプログラム「RiSE with SHOP SMALL」で、全国多数の応募者から選ばれた13人の中の1人に。「バリバリ働いている女性経営者と会った。自分はまだまだ生ぬるい仕事をしていると感じた」と、小さな店にも支援を差し伸べる同プログラムへの挑戦が樋口さんの心を揺さぶった。美味しい弁当を届け、さらなるチャレンジを続けることを決意させた。

コロナ禍で弁当の注文は大きく減ったが、日高市が子育て世帯の経済的負担軽減と地域経済対策を目的に配布した「子育て応援券」を利用した弁当の注文も入り、さらに、弁当の取り次ぎ先として和菓子店の「栗こま娘本舗亀屋」(原宿)が協力してくれたと、助け合いの縁に感謝した。

日高市内で採れた野菜と余ったご飯を粉末にする商品開発にも着手。野菜粉末、米粉、オリーブ粉末を混ぜ、味付けせず、ペット用おやつを完成させた。「犬、うさぎ、ハリネズミ、ハムスターたちも食べられます。私たちも試食しましたが美味しいです。子どもたちも喜んで食べています」と太鼓判を押す。

2024年度、日高市役所地下食堂で日替わり定食の提供を行うことも決まった。また、飯能市内の企業への弁当配達も視野に入れる。「全域とはいかないが、こだわりの日替わり弁当を届けたい」。

小学生の子どもたちが、「お母ちゃんは弁当屋の社長!」と、誇らしく言うのだとか。「いえいえ、3人全員が社長。意見を言いあってさらに前に進みたい」と、意気込んだ。