平成と歩んだ博物館史 特別展示品が語る30年
開館以来の歩みと、飯能の「平成」と言う時代を振り返る特別展「きっとすクロニクルH2H31~博物館30年のモノがたり~」が26日まで、飯能市立博物館「きっとす」で開催されている。同館は、平成2年に郷土館として開館し、昨年4月、天覧山等の身近な自然を紹介するコーナーを新設し博物館としてリニューアルオープン。これまで、同館で企画されて来た特別展にスポットを当て、同館の歴史とほぼ重なる平成という時代に思いを馳せよう、という収蔵品展。
クロニクルは、出来事を年代順に記述する年代期のこと。開館記念特別展「飯能の国指定重要文化財」と「わたしの宝物―思い出に残る品々―」以来30年間に、同館では、これまで特別展を40回開催。特別展に関連する収蔵品と特別展開催を告知するポスターで、同館の歴史と、年々実績を積み上げてきた同館の研究成果を紹介するとともに、様々な行事を撮影した広報用写真等で、飯能が歩んだ平成という時代の雰囲気を思い返してもらうことが狙い。
特別展で展示された収蔵品は、貴重な物や興味を引く物が多いが、特別展以後テーマに上手く合致せず、「収蔵庫」に長く眠ったままの物も少なくなく、今回久方ぶりに市民が目にする展示品も。また、告知ポスターは、その時代の雰囲気・世相を背景に、当時の職員が知恵を絞って制作したもので、懐かしさを覚える物が数多い。
特別展関連資料29点と、「平成飯能クロニクル~あれも平成、これも平成~」コーナーに当時撮影の広報用写真など24点を展示。
今回の展示品で目を引くのは、詩集「岩魚」などで知られる詩人・蔵原伸二郎が描いた墨絵「かいつぶり」や、棟方志功作の絵「HANNO」。共に、平成2年の郷土館開館年企画の特別展「飯能文化萌ゆ」に出展されたもの。
戦後の20年間、飯能で暮らした蔵原を中心に、戦後荒廃した飯能を文化の力で復興させることを目指した文芸復興運動のような一大ムーブメントが盛り上がり、飯能在住文化人が文芸雑誌「飯能文化」等を通じ活躍。蔵原の親友だった棟方志功も、現在の一丁目倶楽部(稲荷町)で、個展や即売会を開催したほか、本の挿絵や装丁用の絵をよく送って来ていた、と博物館職員は解説する。蔵原の詩集・定本「岩魚」の装丁も、棟方の作品。
今回展示されている棟方の作品も本の挿絵用で縦44センチ、横38・3センチ、棟方テーストの“祈る仏”が描かれ、タイトルとして「HANNO 飯能」と、大きく書き込まれている。また、蔵原作の墨絵「かいつぶり」は、水面に静かに浮かぶ一羽のかいつぶりが表現され、一編の詩が添えられている。
二人とも、飯能文化振興に多大な貢献をしたが、市民がこの2作品を鑑賞する機会はあまりなかった、という。
また、飯能の刀匠・小沢正壽作の短刀「銘:(表)以白鷺城古鉄正壽作(長さ29・1センチ、昭和40年作)」は、反りの無い刀で、姫路の国宝白鷺城の解体工事の際に出た古釘を材料に作られた秀作。8年開催の特別展「飯能の刀匠」関連の資料。
これまで、郷土館時代の同館来場者数は年3万人前後で推移。昨年4月博物館にリニューアル、直後の5月80万人を突破後、来館者が顕著に増え昨年度は年間4万人を超えた。自然コーナー設置が、来館者増につながったものと、同館では見ている。
過去40回の特別展で最も入場者が多かったのは、6年開催の「JapanMeissen-瀬戸の磁器人形―」で、期間中1日当たりの入場者数が205・6人を数えた。
今回は特別展に展示された物の中から、「糸巻きドレスデン人形(男性、高さ29センチ)」「同(女性、高さ28・3センチ)」「エンゼル付き透かしコンポート」の3点の収蔵品が展示されている。
さらに、赤ちゃん人形、メンコ等おもちゃで当時を懐かしんだ「飯能、戦後の暮らし」(12年)出展の収蔵品など、その当時の世相を表す展示物が数多く並べられている。
今回の企画を主に担当した引間隆文同館学芸員は、「当時の歴史を振り返って行くと、飯能の文化は、飯能焼、織物、林業が三本柱で、何度も繰り返し取り上げていました。一方でバラエティーに富んでおり、展示を重ねるごとに飯能史の研究成果が蓄積し、近年は災害の実情など精密な展示ができるようになってきました」と、語る。
特別展関連の資料展示以外に目を移すと、平成飯能クロニクルコーナーでは、「美杉台街開きのパレード」(平成元年)で始まり、「彩の国まごころ国体(関連8点)」(15年)、「ムーミンバレーパークオープニングセレモニー」(31年)まで、市所蔵の写真などを中心に、平成の飯能を振り返ることができる。さらに、板碑や、武者人形、飯能焼など新収蔵品45点も、併せて展示されている。
同館は、月曜休館、午前9時から午後5時まで開館。問い合わせは同館(電話972・1414)。