伊豆ヶ岳で転落男児を救助 男性4人に消防協力者表彰
飯能市南川の伊豆ヶ岳山頂付近から約25メートル転落し頭部を負傷した男児(6)に応急手当を施し、山岳救助隊の到着を待ったとして、埼玉西部消防局飯能日高消防署(酒井栄二署長)は13日、男性4人に消防協力者表彰を贈呈した。協力者のうち、飯能市仲町の会社員・中村了(さとし)さん(38)、青梅市の会社員・牛山和人さん(48)、加須市の教諭・中島央貴(ひろたか)さん(45)の3人が飯能日高消防署を訪れ、酒井署長がそれぞれの迅速・的確な判断と対処に感謝し表彰状を手渡した。
転落事故があったのは、5月5日午前11時15分頃。都内から両親とともに伊豆ヶ岳を訪れていた小学1年生の男児が、山頂で休憩中に誤って約25メートル崖下に転落し、頭部を負傷。意識はあったが身動きが取れない状況となった。
現場に居合わせた中村さん、牛山さん、中島さんは互いに面識はなく、それぞれ正丸峠から伊豆ヶ岳を登り、事故当時は山頂で昼食休憩を取っていた。
中村さんは、女性の叫び声を聞き近づいてみると、男児の両親が慌てて崖下に移動するのが見えた。自身も崖下に行ってみると、母親が男児を抱えて崖を登ろうとしているのが見えたため、「子どもを抱えて崖を登るのは再び転落する恐れがある」と判断。母親から男児を受け取り、現場近くの比較的安全な場所へ移し、他の協力者とともに応急手当を施した。
登山経験の豊富な牛山さんは、迂回して崖下から現場へ向かい、持参した道具を使って男児に水分を与え、保温シートで保護。「自分たちだけで救出するのは危険」と判断し、安全な場所で手当をしながら救助隊の到着を待つよう両親らに促し、周囲の協力を得ながら手当や声かけを行った。
また、中島さんは、同行していた妻から転落事故の発生を聞き現場へ駆けつけ、頭部から出血していた男児の手当にタオルを貸し出し、119番通報した女性に現場の状況を説明するなど冷静な対応に努めた。
その後、山岳救助隊が到着し、男児は防災ヘリコプターで救助され、無事病院に搬送。消防署によると、現場は山岳救助隊員でもロープを使用しなければ安全に活動することのできない急斜面で、男児が転落した位置は、一歩踏み外せば更に50メートル程滑落する危険性があり、さらに下へと滑落していたら命を落とす可能性が非常に高かったという。
表彰を行った酒井署長は、「緑豊かな管内には1000メートル級の山々があり、シーズンには大勢の方が登山やハイキングに訪れ、山岳事故も年間20~30件ほど発生している。我々も山岳救助隊を結成し事故に備えているが、いかんせん現場に到着するまで1時間以上かかってしまう。今回の事故では、皆様のご協力により被害を軽減することができた。本当にありがたい」と感謝を述べた。
奥武蔵を代表する山として知られる伊豆ヶ岳は標高851メートル。岩肌を鎖を使って登る「鎖場」のある男坂、比較的なだらかな女坂があり、休日には家族連れなど多くの登山者が訪れる。
表彰を受けた3人も伊豆ヶ岳をはじめ近隣の山歩きを楽しんでおり、事故現場に遭遇したのは今回が初めてだったという中村さん、中島さんは「自分自身も事故のないように山登りを楽しみ、身の回りで何かあったらいつでも協力できるようにしたい」。
過去に何度か事故現場に居合わせた経験を持つ牛山さんは、「もっとこうしてあげたら良かった、と反省する気持ちもあるが。多くの人の協力を得て、男の子を救助隊に引き渡すことが出来て良かった。山は危険がつきもの。常に心構えを持って登りたい」と話した。