飯能・西武の森が最高位 里山保全の理想型

ビオトープとして整備され、森の散策拠点となっているトラスト地

 NPO法人天覧山・多峯主山の自然を守る会(てんたの会)をはじめ多くの市民と西武鉄道が一体となって里山保全活動に取り組んでいる「飯能・西武の森」がこのほど、公益財団法人都市緑化機構が認定する社会・環境貢献緑地評価システム「SEGES=シージェス」の最高位を獲得した。

 この森は、飯能市飯能の天覧山付近に広がる面積約77ヘクタールの里山。飯能駅から徒歩20分くらいの市街地に隣接する地域でありながら、豊かな自然が保全されている。森の周辺地域も含めると、里山は約130ヘクタールの広さがある。27、28日開かれるツーデーマーチの人気のコースにもなっている。

 同社が、市や地元団体と連携し、地元の小学生を交えた田んぼの再生、ボランティアによる主要散策路の整備などを通して、明るく・安全な植林地として再整備し、ハイキングや森林浴の場として親しまれていることが評価された。

 SEGESは、同機構が、企業等による積極的な緑地の保全・維持・活用活動を評価・認定するもの。これまで50か所以上を認定しているが、最高の第5ランクを獲得したのは、同社によると、県内及び鉄道事業者では初めてという。

 この森は、かつて住宅都市開発が計画された地域。市街地に隣接しながら豊かな里山の自然環境が残され、オオタカの営巣も確認されたことから、平成7年建築家の浅野正敏さんら市民が計画中止を訴え、てんたの会(浅野代表)を発足させ活動を開始。17年に同社が計画中止を正式発表した。

 この間、てんたの会は、この森に隣接する天覧山東麓に600平方メートルの土地を購入、ナショナルトラスト地して「ほとけどじょうの里」と名付け、草刈り、田んぼ作り、石窯つくりなど、里山の自然と親しむ拠点つくりを行い現在はビオトープになっている。

 計画中止後、同社も里山の再整備、自然保護活動に積極的に取り組み、保全の仕方などについて、てんたの会をはじめ、地元団体と定期的な懇談会を開き、保全活動に活かしている。

 天覧山西麓のこの森に谷津田と呼ばれる荒れ果てた休耕田があったが、同社は市民の意見を取り入れ、かつての田んぼを覆い隠すようになっていた木々を取り払い、旧田んぼに明るい日差しを取り戻し、散策路が歩きやすいように間伐材のチップを撒くなど自然に配慮しながら、市民とともに利活用できる形で里山を再整備。てんたの会などの市民が中心となり、草を刈り、杭を打ち、水路を整備し荒れ果てた田んぼを再生した。

 現在は天覧入り谷津田と呼ばれ、市民の憩いの場になるとともに、市主催のツーデーマーチのコースの一つに設定されている。

 浅野さんは、「市民の意見を、所有者の同社が良く取り入れ資金も提供し、市民と企業が一緒に行う理想的な活動になっている」と語る。

 この森は、20年に「そだてる森」部門でSEGESの第2ランクに認定され、翌年同社は、この森を「飯能・西武の森」と命名。2年間の書類審査を経て、3年後の23年に現地審査が再度行われ、この森は、評価を上げ第3ランクに認定された。さらに第3ランクで3年ごと3回の更新審査をパスしたことから、今年最終段階の第5ランク「スパラティブステージ」に認定された。

 また、同社は、今春てんたの会に同会が管理する1号トラスト地に隣接する山林約800平方メートルを売却。同会は、この山林をトラスト2号地として整備を進めており、同社と市民との連携はより深まっている。

 さらに、環境省は、日本を代表する様々な生態系の変化状況を把握し生物多様性保全施策に活用することを目的に、全国1000か所を調査するモニタリングサイト1000(重要生態系監視地域調査)を実施しているが、この森も10年前から調査地域になっている。

 西武の森では、てんたの会とともに、日本自然保護協会が協力し、植物、鳥、カヤネズミ、カエル、チョウ、ホタルを定期的に調べている。

 毎月11日は植物調査。月1回決められたルートを回り、草木の蕾・花・実が付いたものだけをカウントし生物の多様性に重点を置いた調査を実施。蕾・花などが見られた植物だけを調べるのは、一般市民の実施を前提とした全国調査のため、誰でも見つけやすいように基準を統一している。

 5月は、美杉台在住で同協会の原田恵子さんを中心に、大河原在住で埼玉県生態系保護協会の黒住浩次さん、浅野さん、植物図鑑等の編集者、市の担当者、地元市民ら約15人が参加。

 この森をA・B・Cの3地区に分け、それぞれ50種・10種・33種の蕾・花等を付けた植物を確認。ササバキンラン、ニタリシズカ、ウマノアシガタ、キツネノボタンなど多くの植物を見つけることができ、生物多様性が保たれた里山であることが再確認された。

 中でも、美しい黄色の花を咲かせる人気のキンランやギンランも、天覧山周辺地区で可憐な花を咲かせていた。

 また、今回の調査対象ではないが、アナグマの痕跡、シュレーゲルアオガエルの合唱、ヤマアカガエルのオタマジャクシ、キジやウグイス、コジュケイのさえずり、シオカラトンボの群舞、キタキチョウ、ベニシジミなど様々なチョウの舞いなどが次々観察され、参加者は、動植物を確認する度に、豊かな里山の自然を再認識し歓声を挙げていた。

 20日には、西武鉄道、市、市民環境会議、てんたの会などの市民団体が協力して、天覧入り谷津田で田植えが行われた。